人の振り見て我がふり直せ、なんて言葉がある。
他人のおこないを批判する前に、まず自分のことを省みよ。ことわざ辞典にはそんな意味が書かれていた。
子どもたちは大人をよく見ている。そして知らず知らずのうちに、見たものを自分の中に取り込んでいる。
なんとなく目につく、子どもの言葉遣いや振る舞いが、私たちそのものだったりして、ハッとさせられた経験があるだろう。
小学校の先生をしていた頃、子どもの何気ない仕草や言動に、家庭の様子を垣間見ることがあった。ぶっきらぼうでヤンチャな男の子が、給食の時間にキレイな箸の持ち方をしている。きっと親御さんも食事のマナーを大切にしているんだなと思いを馳せる。
その逆もある。可愛らしい女の子が「はごさぬー(沖縄の方言のスラングみたいなもので、汚い!という意味)」と言いながら手をシッシッと振り払う仕草をしていて、あらあら…おうちでは荒い言葉が飛び交ってるのかな?と想像したり。
そう、子どもの気になるところ、指摘したくなるところって、大体それを親がしている。
小言を言う前に、まずは自分をよく見返さないといけない。
先日オンラインの勉強会で「疲れた」という言葉について話題になった。「疲れた」という言葉には、「取り憑かれる」と言う言霊が宿っている。そんな話だった。
恥ずかしくてその場では言えなかったが、わが家の次男は「ちかれたー(つかれたー)」としょっちゅう呟く。その言葉を発するきっかけになったのは、母親の私。
言い訳のひとつくらいさせて欲しい。本当に疲れていたのだ。沖縄から茨城に引っ越して、ようやく季節がひと回りした。次男も卒乳して、心身の負担が軽くなったところで、長男の小学校入学。生活リズムがガラッと変わり、窮屈な制服なんて着たくない!毎朝ごねる彼とバトル…。加えて夫の帰宅はいっつも寝る前ギリギリ。クタクタだったのですよ。
で、気づいたら次男が「ちかれたー」と呟くようになっていた。言葉を発するシチュエーションも完璧で、ちょっと歩いたら「ちかれたー」、階段を上り切った後に「はー、ちかれたー!」
駅のホームでこれをされて、周りのおばあちゃんがくすくす笑っていた。これはまずいと焦り出したところに、「取り憑かれる」言霊の話。いよいよ自分を改めないといけない。
ふと息子たちが好きなアニメ「パウ・パトロール」を思い出した。可愛いワンちゃんたちが、街の困ったことを解決して行くのだが、その街の市長さんがニワトリを飼っている。名前がチカレッタ。
「ちかれたー」と次男がつぶやいたら、私が「え、チカレッタ?コケコッコー!」と言い返す。次男はアハハと笑って、コケコッコーと言い始める。
なんとなく「疲れた」の言葉を誤魔化しながら、また言ってたなと我が身を振り返る。効き目があるのかナゾだけど、彼らがパウ・パトロールが好きなうちは、しばらく続けてみようと思っている。
そんなことを書いていて思い出した。そう言えば、妹が撮った、思わず苦笑いしちゃう写真があったな…。スマホの写真アプリを開き、スクロールしてみる。
長男が1歳半だから、5年ほど前の写真。これを見て、ホントに似て欲しくない所ばかり、子どもは親にに似るものだ…って、思ったんだった。
長男は7歳になった今も、手持ち無沙汰になると鼻をいじり出す。すごく目につく。「あ、また鼻ほじってるー」とつい言ってしまうこともある。
でも、私も鼻いじりをしてる。彼がやってるってことは、私がやってるんだよね。
あれだけ嫌だった両親の考え方も、自分が親になった今、気づけばしっかり引き継がれてしまっている。
「寒すぎるので滝はキャンセル。風が強いところも避けたほうがいいと思う」
先日両親が茨城へ遊びに来た。だが、ちょうどそのタイミングで天気が崩れ、気温が急に下がり、観光したかったはずの袋田の滝に行くのをやめようと言い出した。本人たちが寒いのを嫌がったのもあるが、一番は孫たちに風邪をひかせまいと心配していた。
昔からそうだった。何かにつけ、父も母も不安ベースで動いている。いつも、一歩先に回ってストップをかけようとする。今はそういう性分だよねと理解できているけど、昔は自分のやること全てを否定されてる気がして嫌だった。
そこまで考えて、ふと気づく。同じこと、私、長男にしてるよね。
4月、5月くらいまで、小学校の制服を着る着ないで、毎朝長男とケンカしていた。「みんな着てるのになんで着ないの!」と、自分の不安ばかりを息子にぶつけていた。
小学校で見ていた、言葉の荒いあの女の子を思い出す。あの子もどこかで気付いただろうか。自分を恥じたのか、両親を責めたのか。どっちなんだろう。
私はどうだ。自分を恥じる?両親を責める?
もういい大人なんだから、嫌だと思うなら、自分でそのクセを手放さないと。
人の振り見て我がふり直せ。
子どもの気になるところ、指摘したくなるところは、大体それを親がしてるもの。
あーあ、そうだよなー、とため息をついて、伸びをする。ふとリビングに置かれたウクレレが目に入る。今度、ママさんサークルの演奏会に混ぜてもらうことになり、となりのトトロを練習中だ。
私が弾くと、次男が歌う。
となりのトットロ、トートーロ、トトロ!
トットロ、トートーロ、トトロ!
次男が本来の歌詞にはない、合いの手を入れてくる。私がふざけて歌ってて、いつの間にか真似をし出したのだ。多分そういうもんだと思って、彼は歌っているだろう。
このおかしな合いの手を、間違って教えられた!お母さんたら!と、いつか叱られる日が来るんだろうか。面白いのでこのまま放っておこう。意地の悪い母ちゃんはそう考えている。
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