「なんで忘れ物ばっかりするの?」
子どもに「なんで」「どうして」と、すぐ聞いてしまう。
私はそんな先生でした。
なので、「なんで」は言い訳を生み出す言葉だよ、と聞いた時には、衝撃でした。
私は、子どもたちの言い訳を生み出す問いかけばっかり、してたんだ!!
頭をガツンと殴られたような、ショックを受けました。
小学校の先生をしていた頃の話。
当時のクラスに、毎日のように忘れ物をしてくる男の子がいました。
身体の小さい、6人兄弟の末っ子(沖縄では、大家族というか、きょうだいの多いご家庭ってたまにお見かけします)。
お母ちゃんも、子どもたち一人ひとりを丁寧に見てあげる余裕が、ないんだろうな。
「なんで」と聞くと、出てくるのは言い訳だよ。
それを学んですぐの、その子との出会いでした。
もうすぐ図工で絵を描くから、絵の具セットを持ってきてね。
そんな話を、クラスで子ども達に向かってした、次の日。
「先生、絵の具セット、忘れちゃった…」
しょんぼり、彼がやって来ました。
教卓の前に来た彼は、今にも泣きそうな顔。
「そっか。言いに来てくれてありがとう。」
一言、男の子に伝えたあと、私はこう尋ねました。
「じゃあさ、どうしたら、明日は持って来られそうかな?」
「なんで」を「どうしたら」に変えるだけ。
それだけで、思考が未来に向かうんです。
「なんで?」は、過去を探しに行く言葉。
「どうしたら?」は、未来を探しに行く言葉。
男の子と一緒に、「どうしたら、絵の具セットを忘れずに持ってこられるか」という未来を、考えることにしました。
男の子はポカン。
突然「どうしたら持って来れそう?」と聞かれて、困惑しています。
「えー、うーん、分からない…」
「そうだよね、急に聞かれたら浮かばないよね。
あ、じゃあみんなにアイデアもらってみようか」
私は近くにいた子を捕まえて、
「ねえねえ、次の日学校で必要なもの、忘れないように持ってくるために、どんな工夫する?」
と聞きました。
私(先生)に急に聞かれた女の子。
「そうだなあ、冷蔵庫に「リコーダー」とか書いて、貼っておく?
そしたらお母さんが教えてくれるし」
「いいねー! あなたは?」
隣の子にも聞いてみます。
「うーん、家に帰ったらすぐ、ランドセルに入れておく。後回しにすると忘れるから」
「なるほど。いいねー」
隣で黙って聞いてた男の子。表情がだんだん、明るくなってきたのが、横目に見えました。
「先生、オレは靴の上に置いとくね。学校行く時、靴は絶対履くじゃん。だから忘れないよ」
えー、靴の上にリコーダー、汚くない?
女子が若干、ひいていますw
えー、でもさ、確実じゃん!
もう、面白すぎる。子どもたちのアイデアが止まりません。
「先生、わかった。僕、唱えながら帰るよ」
隣でずうっと、話を聞いてた男の子が、自分からアイデアを出しました。
「え、何を唱えるの?」
「絵の具セット、って、唱えながら帰る」
それ、できるの??
アイデア出しをしてくれた子どもたちが、口々に言います。
「でも、一度やってみたらいいよ。上手くいけば自分に合ってる方法だし、上手くいかなかったら違う方法を考えればいいし。」
じゃ、頑張ってみて。彼の肩をポンと叩いて、その日は終わりました。
次の日。
「先生。見てみて。」
目の前には、誇らしげに絵の具セットを手にした、彼。
ホントに唱えながら帰って、忘れ物しないで学校来てる!!
クラスじゅうが、びっくりでした。
後日談ですが、別な子が「オレも忘れそうなモノを、唱えて帰ってみる」と、やってみたんです。
見事に失敗でしたw
彼が自分で編み出した、彼に合ったアイデアだったんですね。
「どうしたら?」の威力に、ただただびっくりしたエピソードです。
ずっと「なんで?」と聞き続けていたら、彼と私の信頼関係は、どこかで壊れたんでしょうね。
「なんで?」「なんで?」と、責め続けられてるような、そんな辛さを、彼に与え続けたかもしれない。
大人はついつい、物事の「理由」を知りたくなります。
なんでそんなことしたの?
って。
子どもたちにしてみると、
上手く言語化できないとか、本当にそうなのか分からないとか、
…実は理由なんてなかったりとか。
結構聞かれると、答えに困る言葉でも、あるのかなと思います。
「なんで」と聞かれたから、言うんだけど
言葉がちょっと違ってたり、ある種、ウソになってしまってたり。
「それ、違うじゃない!なんで嘘なんかついたの!!」
ってなったら、もう修羅場です(^^;;
忘れ物をした。
遅刻をした。
学校に行きたくないと渋っている。
そんな子どもの「現象」を目の前に、「なんで?」と言いたくなったら。
ぐっと飲み込んで、
「どうしたら良いかな?」って、言葉を変えてみてください。
一緒に考えてみてください。
もし子どもが自分で答えを出したら、どんなに変でも(さっきの唱えて帰るみたいに)
じゃあ、試してみようって、させてあげて。
もちろん答えが出ないなら、それも正解。
「そっか、今は浮かばないんだね」って、言ってあげてください。
あなたと子どもたちの関係が、どうか温かいものでありますように。
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