「あなたのためを思って」ってやつは、本当に迷惑だよね…。

先生の働き方

「あなたのためを思って」ってやつ。

これほど面倒なものはない。

最近聞いたラジオでそんな話をしていた。

パーソナリティさんが言うには、親切心からやっていることがなぜ迷惑になるの?といった感じで、どんなに説明してもこのタイプの人には届かないんだそう。

被災地に届ける千羽鶴。

自分の着なくなった服を、支援のつもりで大量に送る。

どちらも処理に困ってる。そんなことに目が向かないものかね。でも言っても伝わらないんだよねー。

そういう私も「あなたのためを思って」と必死に指導していた、面倒くさいヤツだった過去がある。だからラジオを聞きながら、ただ苦笑いを浮かべていた。

あの努力は誰の為にもなってなかった。強いて言えば、私の自己満足には一役買ってたんだろうな。

この子は遅刻の常習犯だよ。

担任を受け持った4月の初めに、そう申し送りを受けていた男の子がいた。

遅刻なんて、したくてする人はいない。

今だったら当たり前じゃんと思うけど、当時の私は分かってなかった。

どうにか工夫すれば間に合って来られるはず。なのになんで遅刻するの?そんな考え方をしていた。

彼の家は校区の端の方にあった。しかも、子どもが歩いてくるにはちょっと大変な、起伏のある道を通らなければならなかった。

なので毎朝、母親か父親が車で送るのだが、小学生の彼を学校へ連れて行く前に、兄や姉も中学に送り届けていたり、そもそも家を出る時間が遅かったり。

始業のチャイムが鳴る前に彼が教室にいることは、ほぼなかった。

朝の会が始まり、出席を取っていると、教室のドアがガラガラと開く音が聞こえる。「おはようございます」とうつむき加減で挨拶をして、彼が入ってくる。

「はい、おはよう」と言いながら、私は出席簿の彼の欄へ「遅刻」の印を入れる。

毎日それが続いた。

時折、子どもたちに授業の用意をしてもらっている間に彼を呼び出して、話をした。

「なんで遅刻したのかな」

「お父さんがおうちを出るのが遅くて。」

「うん、それをどうにかして、早くすることって出来ないのかな」

そんなの彼が出来るなら、とっくに遅刻なんか止んでるはずだ。馬鹿な私。そんなことにも気を留めてあげられなかった。

「このまま遅刻が続いたらよくないなって、そう思って話をしてるの。これからのあなたが困るんだよ。」

「…。」 

無言でこちらを見返していた、彼の目が忘れられない。困る?僕が?本当に?

あなたのためと言いながら、「ただ遅刻が許せない自分」のために指導を繰り返していた私のことを、彼は見抜いていただろうなと思う。

結局彼の登校の様子は、1年間変わらなかった。

だからと言って、彼に不都合が生じたかと言えば、何にも起こらなかった。

出席簿に「遅刻」の印が増えたこと、たまに1時間目の授業に間に合わず、慌てて支度をしないといけなかった事ぐらい。

私自身が親になってから、この時持ってた価値観は、ようやくぶち壊されることになる。

遅刻したくてしてくる子はいない。

この子自身でどうにも出来ない事だってある。

どうにも出来ないことに対して「良くないよ」「変えなさい」

馬鹿みたいに繰り返してたんだな、あの頃の自分。

そう思えるようになる。

「あなたのためを思って言ってるの。」そんな意図で近づいてくる人に、今の私は敏感だ。

ビクッとなって、思わず距離を取りたくなってしまう。

先日、茨城でお知り合いになった方と「なっちゃんは沖縄出身で三線が弾ける」という話題になった。

そうしたら、その中の1人が

「えー!なら絶対こっちで三線教室とか開いたらいいよー」と言い出した。

「そうですね、ちょっと練習頑張ってみてから、そういうの考えてみてもいいですねー」

私が相槌を打つと彼女はかぶせるように、

「何言ってるのー、絶対やった方がいいよー!持ってる技術は外に出した方がいいよ!私なんかなにか探せればいいのに、いまだ分かんないだから、もったいないよ!」 

とまくし立てて来た。

「そ、そうですね、ありがとうございます…」

若干引く私。

「ほら、沖縄帰りたいな、っていうホームシックみたいなのもね、きっと減ると思うの。三線やりたい人だってきっといっぱいいるわよ、ねぇ」

いや私のやりたいタイミングでやるから!と突っかかりそうになるのを堪えて、

「はい、そうですね♡」

もういい大人、アラフォーの私はにこやかに受け流した。良くやった。

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