前回の続きです。
市役所で栄養士として働いていた私。
健康診断の結果が「要注意」だった住民の方々に、役所に来て面談を受けてもらったり、健康づくり教室に来てもらったり。
いわゆる「保健指導」を受けてもらうための、お誘いをする。
そんなお仕事を任されました。
さて、どうやって住民の皆さんを誘ったらいいのか。
先輩に尋ねると「できるとしたら、方法は3つかな」と教わりました。
- 市の広報に載せてもらう
- 案内の封筒を送る
- 直接お電話をかける
市の広報には、おそらく保健師さんが毎月、健康に関する情報や案内を載せてくれていたはず。
なので私たちはお手紙づくりと、電話かけ。
でもね、お手紙と電話で、市役所に出向いてもらうって、なかなか難しいんですよね。
そもそも市役所から届いた封筒を開けて「健診結果が要注意ですよ、健康づくり教室に来ませんか?」って書いてあるのを見て。
「はっ、健康づくり教室だって⁉︎ うわーやばい、行かなきゃなぁ」
って思ってくれるなら、多分のその人は自分でも、健康に気をつけた取り組みをすでにしているはずなんだよね。
本当に来てもらいたい、生活改善しないといけない!っていう人には、なかなか届かない。
お電話も、役所が開いてる日中にかけるのですが、お仕事中の人も多く、なかなか繋がらない。
繋がっても、◯◯市役所の者です…と伝えると、途端に相手の声色が変わる。
「何?保険料ならちゃんと払ってるよ?」
とつっかかられたり、
「大体あんた達がちゃんとした税金の使い方しないからね…」
となぜか説教されたり。
なんでこんなに、知らないおじさん達に怒鳴られないといけないの?大学を出たばかりの私は、泣くのを堪えて、ノルマをこなしておりました。
「国保の人はね、自営業の人も多いからね。忙しくて、自分にかける時間が取りづらいのもあるかもね。」
仕事場の私の机は、国民健康保険課のはじっこにありました。その課で長く働いて来た課長が、ふっと教えてくれました。
時折、課の窓口に怒りをぶつけにやってくる住民がいました。
「なんで毎月、こんなに保険料がかかるんだ!もう払わねーぞ!」
みたいな感じで、おじさんが怒鳴ってるんです。
そういう困った人が来ると、課長が出て行きます。
課長は、怒ったおじさんの話をひと通り聞きます。
「そうですよねぇ」
「大変ですよねぇ」
「すみませんねぇ」
なんて相槌を打ちながら、ずーっと怒っている相手の話を聞いています。
次第に怒ってたおじさんは、落ち着いていきます。
最後には「分かったよ」とか、「仕方ねぇな」とか言いながら、おじさんが帰っていく。
課長の対応を、いつも感激しながら眺めていましたが、おじさん達の背景も汲みながら、課長は話を聞いてたのかもしれない。
そう思いました。
会社に属さず、仕事のあれこれを全て自分で請け負っている。
そんな方が、平日2時間、役所で面談したり、健康づくり教室に参加する。
その2時間で、あの仕事もこの作業もできたのに…。なんならお誘いの電話に取られる時間も、もったいない!
私が同じ立場なら、そう思うかもな。
いくら健康な身体や、運動習慣が大事と分かってても、仕事が成り立っていなければ、収入が無ければ、健康づくりに時間を割いている余裕が、ないですよね。
その人の状況によって、大事なことも、大切にしたいことも違うんだよな。
課長にその話を聞いてから、「健康づくり教室に来ませんか」のお電話をかけるのが、少しだけ面白くなりました。
この人(これが大概おじさんばかりでした)は、どんなお仕事をしてるのかなあ。
電話の向こうのおじさんに、前より興味がわくようになりました。
「今お仕事中ですか?」
「そうだよ」
「そうですか!ですよね、忙しい中すみません」
「いや、少しくらいならいいよ。なんなの?」
↑
ここで「そう、忙しいから切るよ!」って切られちゃうことも多かったけど。
そりゃそうだよねと捉えられるようになりました。
そのままお話を聞いてくれる方には、こちらの用件も伝えつつ。
どんな仕事をしてるのか、普段どんな風に生活されているのか。時間の許す分だけ、お尋ねするように、電話のかけ方が変わりました。
自分で飲食店をしている人、仕入れ業者さん、酒屋さん、色んな職種の方がいました。
長話になりすぎることもあったけど、知らない世界の話を聞くのは面白かったです。
結局、電話をかけて、面談や健康づくり教室への参加が決まった人は、ほぼいませんでした。
電話代ムダになったね。と先輩に言われ、チーンとなったけど…。
今回の電話やお手紙がきっかけになって、少しご自身の健康に目が向いたり、次の年の健康づくり教室への参加に繋がったり、したかなあ。
そうだといいなぁ。
自分の行動を変える気がない、予定のない「無関心期」にいる皆さんですものね。
お電話や手紙が、せめてもの情報提供になっていたら、成功だったのかも知れないな。
うーん。タイトルに挙げた「TTM理論✖️多忙な先生方との関わり方」に、繋がるんだろうか。
次回に続きます。
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