「もう終わってきたんですか?」
彼女は読んでいた本を脇に置き、私にそう言った。
怒ってるのか、朝だしテンションが低いのか。
少なくとも好意で話していないのは明らかだった。
息子の小学校に読み聞かせボランティアへ行っている。
朝の会までの時間をいただいて、担当のクラスで、絵本の読み聞かせをさせてもらう。
1時間目の授業に影響が出ないように。長引かないように。
私はいつもそれを気にしている。
息子のクラスへお邪魔しているのだが、1時間目の授業が体育。
準備に時間がかかるし、体育を好きな子は多いから、活動時間が短くなると不満も出るかも。そう思ってのことだった。
ただ、いただいた時間めいっぱい、絵本の世界に触れさせてあげたいな。
それが大切な人もいる。
それぞれ大切なことが違う、愛の届け方が違うって、こういう事だよな。
そう思ったエピソードだ。
冒頭の話へ戻る。
「今日は早めに読み終わっちゃったので…」
そう返すけど返事はない。
私より年上そう。メガネにキリッと眉毛の彼女が、こっちを見ている。
沈黙が嫌なので、話を続ける。
「25分までに終わらないと、授業が体育だったみたいだから悪いなぁと思って…」
「30分までですよ」
「へ?」
「8時半まで時間いただいているんですよ」
「そうだったんですねー。すみません、勘違いしてました」
時間いっぱい、読んできなさいよ。
暗に言われたような気がした。
一瞬ムカっとして、悲しくなって、自分を否定されたような。
そんな気持ちになった。
それから続々と、読み聞かせを終えたボランティアの方が帰ってきた。
今日は読んだ本のシェア会まで参加予定だった。
そのまま隣に座ったお母ちゃんと「子連れで読み聞かせはしんどいねー」なんて、お喋りをして待つ。
皆さんが選んだ絵本は面白かった。
私は「朝から楽しい気持ちになったらいいな」と選ぶのだが、みんな選ぶ基準が違う。
秋なので、いろんな果物に触れて欲しい。
高学年は、絵のない朗読も聞いて楽しんでくれる。
国連の日が近いので、平和についての本を。
それもまた、みんな違ってみんな良いのだ。
めいっぱい子ども達に、時間を使ってあげて!
それがあのお母ちゃんの愛だったんだな。
ストンと気持ちが晴れた。
思い返せば私だって、お母ちゃん達の朝の読み聞かせは、特別な時間だった。
自分のお母さんが、クラスのみんなに本を読んでくれてる。
子どもは誇らしそうに、自分の母(パパもいた)が本を読むのを眺めている。
他の子も楽しそう。
友達のお母さんが本を読んでくれる。あんまりない機会だ。
ちょっとくらい、時間押してもいいや。
私も一緒に聞き入って楽しんだ。
次の読み聞かせボランティアは、また違う気持ちで臨める気がする。
クリスマス。どんな本だと楽しいかなー。
あ、やっぱり楽しいは譲れないんだな。
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